【猿婿どん】

■昔々のお話。おじいさんが田んぼをこさえて、水を引くために堰(せき)をつくりました。ところがある日、大水のせいでこの堰がこわれてしまったのです。せっかくの田んぼに水を引けなくなり、大変困ったおじいさんは、『堰をどうにか直してくれる若いもんがあったら、3人いるわしの娘をひとりくれてやるのになあ』と、おもわずつぶやきました。

■それを聞いていたのが山に住む猿でした。おじいさんのところへやって来た猿はたちまちのうちに堰を元通りに直してしまいました。田んぼに水が引けたのはうれしいけれど、山の猿なんかにうちのかわいい娘を嫁に出さなくてはならない。娘たちは嫁に行くと言ってくれるだろうか・・・おじいさんは困ってしまい、食欲もすっかりなくなりました。頭もズキーン、ズキーンと痛みます。

■そんな時、1番上の娘がやってきました。おじいさんは山の猿と結婚してほしいと頼みますが、娘は嫌がって帰っていきました。次に真ん中の娘がやってきましたが、やっぱり同じように嫌がって帰っていきました。やがて、1番下の娘がやってきました。おじいさんが頼むと娘は『親の頼みだもの。私は山の猿とだってなんだって結婚します』と。おじいさんは安心して、やっと食べ物がのどを通るようになり、頭痛も治りました。


■1番下の娘は、山のずーっと奥の方で猿と生活を始めました。正月が近づいてきました。まちへおもちを持っていく時期です。猿は娘の提案で、つきたてのおもちを入れた臼を背負って家を出ました。後ろから娘がとっちんこーん、とっちんこーんと杵でその背中を搗いて歩きます。さすがの猿もでこぼこの山道でその衝撃には耐えられず、谷に落ちてしまいました。
おじいさんのもとに戻った娘は、今度はきちんとした人間のよい旦那さんをもらい、末永く幸せに暮らしたということです。